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福井地方裁判所 昭和62年(特わ)51号 判決 1987年11月19日

本店所在地

福井県鯖江市神中町二丁目三番三〇号

青山眼鏡株式会社

(右代表者代表取締役 青山清彦)

本籍

福井県鯖江市糺町第二八号五番地

住居

同市神中町二丁目三番三〇号

会社役員

青山清彦

昭和一五年一一月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官匹田信幸出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

被告人青山眼鏡株式会社を罰金二三〇〇万円に、被告人青山清彦を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人青山清彦に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人青山眼鏡株式会社(以下「被告会社」という。)は、福井県鯖江市神中町二丁目三番三〇号に本店を置き、眼鏡枠の製造及び御売等の事業を営む資本金九三六〇万円の株式会社であり、被告人青山清彦(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、同会社経理事務責任者高坂正らと共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億九五八七万一六二〇円で、これに対する正規の法人税額が一億二〇七五万二〇〇〇円であったにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和六〇年二月二五日、同県武生市中央一丁目六番一二号所在の所轄武生税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七八九八万三六二六円で、これに対する法人税額が二六六九万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま右過少申告にかかる税額を納付したのみで納期限を徒過させ、もって不正の行為により右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額九四〇五万九六〇〇円の法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通及び同人作成の上申書二通(検察官請求証拠等関係カード番号102~108、99、100、以下括弧内の算用数字はそれを示す。)

一  高坂正の検察官に対する供述調書九通及び金沢国税局収税官吏大蔵事務官(以下「大蔵事務官」という。)の同人に対する質問てん末書(9~27)

一  橘弘一の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官の同人に対する質問てん末書二通(28~300)

一  紺野正晴の検察官に対する供述調書(31)

一  佐々木正幸の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官の同人に対する質問てん末書二通(32~35)

一  大蔵事務官の松下徹(三通)及び渡辺千津子に対する各質問てん末書(36~38、40)

一  加倉田孝の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官の同人に対する質問てん末書三通(44、45、41~43)

一  毛塚富雄の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官の同人に対する質問てん末書(48、47)

一  窪田真哉の検察官に対する供述調書三通、大蔵事務官の同人に対する質問てん末書二通及び同人作成の確認書三通(51~53、49、50、54~56)

一  大橋玄一、木下昭一、小林俊一及び永井一美作成の各確認書(71~73、82)

一  大蔵事務官作成の告発書及び査察官調査書二三通(1、70、77~81、83~98、115)

一  武生税務署長の昭和六二年一月二三日付(証明書二)並びに同年三月一七日付(二通)各証明書(3、7、8)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(112)

一  検察事務官作成の捜査報告書(6)

(法令の適用)

判示所為は、被告会社については法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(七四条一項二号)に該当するところ、情状により、免れた法人税の額に相当する金額以下で処断することとし、その範囲内で被告会社を罰金二三〇〇万円に、被告人については、刑法六〇条、法人税法一五九条一項(七四条一項二号)に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を一年二月にそれぞれに処し、被告人に対し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、福井県鯖江市内において、業界有数の眼鏡枠製造御売会社である被告会社を経営する被告人が、同社の経理課長らと共謀のうえ同会社の業務に関して、昭和五九年度の法人税九四〇〇万円余をほ脱したという事案であって、ほ脱額が巨額であるばかりでなく、ほ脱率、すなわち、正規に納めるべき法人税額に対するほ脱額の割合も、八〇パーセント近くにのぼる高率であるうえ、その犯行態様は、特定業者に対する売上げを完全に除外し、その発覚を防ぐために、右取引に関しては伝票を作成せず、架空人名義で銀行口座を設けて売上金を入金するなどの手段を講じていたものであって、計画性の強い悪質な犯行であり、被告会社及びその代表者である被告人の刑責は重いといわざるを得ない。

しかしながら、他方、被告人らは、売れ残りの在庫の処理に苦慮していたところ、売上げを帳簿にのせないことを条件に右在庫の買取りを申し込まれてこれに応じた結果、本件犯行に及んだのであって、本件売上除外は被告人らが積極的に発案したものではなく、その主目的は在庫品の売却であって、脱税はいわばその結果生じた副次的なものであったこと、右脱税額の役三分の一は、本件脱税発覚後の青色申告取消処分により、青色申告者としての各特典を取消されたために生じたものであるところ、これについても、被告人らの故意に欠けるところがないことはもちろんであるけれども、被告人らの不正行為から、事後的、間接的に生じたものであるから、情状としては配慮の余地があること、被告人は、改悛の情を示し、本件事業年度につき修正申告をなして、重加算税等を含め一億七〇〇〇万円余を納付していること、今後再び同種犯行を繰り返さない旨誓約し、再犯防止のたた、被告会社の経理体制の改善を図っていること、被告人には同種前科はもとより、とりたてていうほどの前科もないことなど被告人及び被告会社にとって配慮すべき事情も認められるので、これらの事情一切を総合考慮し、それぞれ主文掲記の量刑をなし、被告人に対してはその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋金次郎 裁判官 丹羽日出夫 裁判官 白石史子)

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